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ダグラス温泉

2001年のクリスマス、僕はシドニー空港近くのtempeという街で多国籍な人々と一軒家をシェアしていた。そんな時、東京から、長いお付き合いをさせて貰っているイラストレーターのエドさんから、そっち遊び行くわ、と連絡貰い、メールで旅の行程のやり取りをし、シドニーで待ち合わせをした。

オペラハウス近くのロックスというエリアのエドさんが宿泊するホテルの鉄板焼き屋で久々の再会をした。異国の地での待ち合わせは不思議な感じでとてもワクワクした。鉄板焼きは高級価格だったので僕はエドさんに奢って貰うことにした。そして、たらふく高級肉を食べた。自炊パスタとチャイナタウンの激安チャーハンの毎日だったので問答無用に食べまくった。ご馳走様でした。

その後、シドニーにあるアートギャラリーを幾つか巡った。東西南北に点在するアートギャラリーをエドさんは最初からタクシーでまわりたがっていたが、僕は、折角だから歩きましょ、と強引に何時間も徒歩でシドニーの街中を歩き巡るプランを推し進め、エドさんもブーたれながらそれに付き合ってくれた。初めての街を歩く。これだけで楽しいはず、なんて勝手に思い、二人で途中コーヒー飲んだり軽食なんかをつまみながら天気の良い真夏のクリスマスシーズンのシドニーをひたすら歩き回った。シドニーの真夏の気候は最高に気持ち良く、日向はジリジリと肌を焦がす位暑く、ビル陰などの日陰に入ると冷んやりと涼しく湿気もなく汗が自然と引いてくれる、という感じ。だから歩きも苦にならない、と。

次の日、オーストラリア北部のダーウィンへと、シドニーからレンタカーで向かおうと幾つかレンタカー屋をあたってみた。これがまた意外なことに全ての店で断られてしまった。理由は、あんなジャングル地帯に冗談でしょ?車壊すようなもんだ!無理!とのことだった。

結局、エドさんと僕は飛行機でダーウィンへと向かった。レンタカー屋で日中を費やしてしまったので夜のフライトだった。フライト時間は二時間弱、僕は機内の窓側だった。なにげなしに窓から真っ暗な外を眺めていた。ふと気づくと小さな光がずっと僕らの乗る飛行機についてきていた。明らかにU.F.Oと確信し、隣で寝ているエド氏を叩き起こし、エドさん、やばい、U.F.O!と耳打ち。リュウマお前アホだろ、あれはこの飛行機の羽の照明だ!と、よく見ると照明だった。あの時の恥は今も鮮明に思い出してしまう。照明でした、間違いなく。

ダーウィンの街に夜についた。なぜダーウィンに来たのか?は、エド氏が「世界のパワースポット」なる本を持参し、その中にダグラスホットスプリングという自然の中にある川の一部だけが温泉になっている、との嘘の様な記事の真否の確認をする為だった。これが今回のこの旅の目的だった。しかし、果たしてその場所がわかるか否か?も定かではなく、その本の少ない情報を頼りにそこまで行ってみようという試みだった。

ダーウィンのレンタカー屋はすぐに車を貸してくれた。90年初期の黒のいかついトヨタカムリだった。この車で、オーストラリア大陸のど真ん中を北から南へと結ぶ道路、一号線をただひたすらと南下した。大陸のど真ん中にあるアリススプリングという町の少し北に位置するダグラスへまずは向かった。灼熱のダーウィンはすぐに大地が赤土に変わり見渡す限り巨大な蟻塚、破裂したタイヤ片の数々、給油ポイントをミスると死に直結する予感もあり、緊張感ある長距離ドライブとなった。エドさんと僕は運転を交代しながら猛スピードでひたすら南下直進。あるか否かもわからないダグラス温泉へ、気分は川口ヒロシ探検隊に近かった。

朝にダーウィンを出発し、もう夕方も近くなっていた。5、6時間ひたすらと猛スピードで直進のみ。お互いに疲労も感じていたと思う。たまに猛スピードの対向車がすれ違う。ある対向車がすれ違った時に小石が凄い勢いで飛んできた。僕らのトヨタカムリのフロントガラスにヒット。見事に蜘蛛の巣状のヒビがフロントガラスに入ってしまった。ありゃありゃ、請求が怖い。だが仕方なし。構わずそのまま直進のみ。まだかな、まだかな、と存在するか否かもわからないダグラスへの旅も、そろそろ心がくじけそうになった頃だろうか?猛スピードで走っていたら鉄製の小さな看板に、ダグラス、とあった。この時は感動した。本当にあった、ダグラス。看板に従い初めて左折という行為をした。

左折をし、ダグラスというエリアに入ると無人の牧場のような、キャンプ場のような敷地になった。誰も居ない。しばらく敷地内を車で走ると白いキャンピングカーが一台停まっていた。僕らもその車近くに停車した。ようやく単調な猛スピード長距離ドライブが終わった。そこからエドさんと僕は徒歩で辺りを散策した。車を停めた先に急斜面があり降りると自然がいっぱいな樹々の中に綺麗な川が流れていた。野生の鳥がたくさん囀っていた。蔦も生い茂り、ジャングルの中にある綺麗な川という感じだった。川は浅く水は綺麗に澄んでいた。裸足になり川の中に入ると冷んやり冷たい。とても気持ちが良かった。しばらく川の中をエドさんと僕は歩いた。もう、温泉とかいいや、と綺麗な冷たい川の中、思っていた。すると一人の白人の若者が川の中で肩まで浸かって空を見ながら黄昏れていた。僕らは彼に遠くから話しかけた。ねえ、ダグラスホットスプリングって知ってる?

すると若者は、ここがそうだよ。と答えてくれた。えっ?と僕らは吃驚した。どう見ても川。それもこんなに冷たいのに、そこだけ温泉なんてあり得ないだろ?と、急いで彼の方へと僕らは向かった。彼の近くに近寄った時、川が急に暖かくなった。えー!

冷たく綺麗な川の一部だけが見事な温泉となっていた。きっと水温30度くらい。そこから小一時間、白人ニュージーランドの若者男性とエドさんと僕のたった三人で野生の鳥達の囀る大自然の中のダグラス温泉を広大な夕暮れの空を見上げながら黄昏れ、堪能した。

帰りはしんどかった。夜中にダーウィン市街に到着。泥の様に寝た。

蜘蛛の巣状のヒビがフロントガラスに入ってしまったトヨタカムリは、次の日にレンタカー屋に訳を言うと、doesnt matter.(問題ないよ。)と、なんにも請求されなかった。ダーウィン恐るべし。

ダグラスホットスプリングは本当に実在しました。以上。

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by deavolaman | 2012-04-13 13:56
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